今年は当院の特徴的な事柄をいろいろと書いているんですが、その中でもおそらくこれ以上独特なことはなさそうな「アロペシアX」について。
アロペシアX、脱毛X、ポメラニアン脱毛症、古くは偽クッシングなどとも呼ばれていた、ポメラニアンに多く見られる脱毛症です。
アロペシアXは、昔からポメラニアンに多い脱毛として認識されていますが、他の犬種でもまれに発生します。甲状腺や副腎以外の何らかのホルモンバランスの不均衡により発生すると考えられていますが、その要因が多岐に渡る可能性があるため、なかなか治療に苦渋する、しかも、見た目だけの問題のようなので現実的には「無治療」も選択肢に入る皮膚病です。(甲状腺機能低下症を併発しているケースもあります。)
ホルモンにはいろいろな種類がありますが、例えばコレステロールから合成されるホルモンだけでも簡単に書いても以下のようになり、

これらのどこに異変があるのか特定は不可能という状況です。

(このスライドはもう10年以上前に、他の病院さんに依頼されて作成したものの一部です。当時と基本的な方針は変わってません。)
オスのアロペシアXの場合、去勢により発毛することもあるため、その場合は男性ホルモン(テストステロン)により毛周期が短くなる、ヒトのAGAと似たような病態であると考えられますが、
アロペシアXはメスでも去勢済みのオスでも発生するため、それだとテストステロンだけでは説明がつきません。
おそらくホルモンバランスの不均衡に個体差があると推測しているため、現実的には「治療してみないとわからない」しかも「ホルモンだけではなく皮膚、肌質にも個体差がある」と考えています。
当院は、神奈川県藤沢市にあった米倉動物病院の故 米倉督雄先生考案の治療方針を受け継いだアロペシアX治療を行っています。
米倉督雄先生はアロペシアXを独自に長年研究され、私が師事した2008年当時でようやくアロペシアXの処方が決まってきた、というお話をされていました。
その治療方針は非常に独特で、正直なところ受け継いでいる私でも難解に感じるところが多いのですが、現実的にはその治療にて発毛する子は多いです。
当院にてアロペシアXの治療を行ったワンちゃんは7割程度は発毛し、3割は、全く反応が無い、1度少し発毛したけどまだ脱毛した、治療したけど脱毛が進んだ、等々、同じ方針の治療をしているにも関わらず経過に差があるのは、やはりホルモンの不均衡の個体差であろうと感じています。

(色合いが違うのでわかりにくいですが上が半年経過時点、下が初診時の同じワンちゃんの左側腹部です。)
この治療は、発毛してるかな?と感じるのが早くても3~4カ月、8か月から1年程度治療しても反応が無かったら難しいかもしれないというような、とにかく根気が必要です。また、発毛しても治療をやめると再脱毛することがあるため、発毛しても継続します。(余談ですが、この治療期間の目安もヒトのAGA治療と似ているようです。)
発毛後、コストカット目的で減薬することはありますが、再脱毛すると同じ治療してまた発毛するかどうかも何とも言えないこともあるので悩ましいところです。
また、膿皮症のような他の皮膚病を併発しやすいワンちゃんがいるため、保湿剤などの肌質対策を行うこともあります。
多くのワンちゃんはこの治療による副作用は無いようです。
稀なケースで、体質的に合わないワンちゃんがいて肝臓の数値が極端に上がることがあったのでそのワンちゃんは治療を終了しました。
というように、師事し受け継いだ治療を行ってはいるものの、それで解決、といくわけでもなく、うまくいくかどうか本当にケースバイケース、個別対応で経過を観察していく必要があります。
じっくり治療してみないと有効かどうかわからない、結果を保証できる治療ではない(そもそも医療とはそういうものですが)ので、当院は積極的にアロペシアXの治療をやります!という考えではないのですが、おそらくこの治療を行っている動物病院は数少ないと思いますので、世の中にはこういう治療もある、ということで・・・もし、治療をご検討される方がおられましたら受診されてください。
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